Verv Energy – IoT, AI, ブロックチェーン、3 つのトレンド技術でエネルギー 分野に挑むロンドンのスタートアップ

ロンドン郊外の我が家でも昨年スマートメーターを導入した。交換は無料で、これまでに使った電力の量が、KWhとともに金額で表示される。スマートというのだからもっと機能があるだろうと思い、マニュアルを読んだが特にない。それだけなのである。

こちらでは、電気メーターの検針は数ヶ月に1回程度で、あとは毎月自分でメーターを読んでネットに入力する。供給側の目論見としては、この検針員の人件費削減と、正確な使用量のリアルタイムな把握であろう。このデータを分析すれば、正確な需要予測ができるようになり、大きなメリットがあることは容易に想像できる。しかし、ユーザー側としてはメーターを読んで報告する手間がなくなっただけである。スマートメーターによって積極的に節電に関われるのかと考えていたがそうではないことがわかった。

ロンドンのエネルギー系IoTのスタートアップ「Green Running」は”verv”というブランドで、非侵襲で個別の電気機器の使用状況を把握する技術を開発している。どの機器がいつ動作して、それに料金がいくらかかっているか、という詳細な情報を把握することができるので、無駄な電力の使用が見えるようになり、エンドユーザが積極的に省エネ、省コストに関われるようになるというのがこの会社のvisionである。

ハードウェアとしては”Verv Home Hub”というボックスを開発しており、これを電気の元栓、つまりメーターの近くに設置し、クリップ式のセンサーをメインのケーブルに取り付ける。これは磁気を使った電流センサーで、電力の使用状況をKHzレベルでサンプリングする。サンプリングしたデータはWi-Fiでスマホかタブレットのアプリに送られ、そこで分析して今どんな電気機器が使用中かの情報が得られる。

個別の電気機器は、それぞれに特有なシグネチャー(Electric Signature)、すなわちスイッチをオン/オフした時やオペレーション時の電流変化の独特のパターンを持っている。これを読み取ってパターンマッチによりどの電気機器が使用されているかがわかる。IoT + AI(人工知能)の一つのわかりやすい具体的応用である。取得されたデータはサーバーに集められ、機械学習によりさらに優れたモデルにアップデートされる。

機器毎の使用状況がわかると、家全体の使用電力がわかるだけの”スマートメーター”と比べていろいろなことができる。今日は洗濯にいくらかかったかがわかる。人のいない部屋の暖房がつけっぱなしかどうかがわかる。アイロンなど、熱を発する機器がつけっぱなしの時に危険を知らせる。さらにリモートでこの機能を使い、使用パターンがいつもと違うかどうかを見ることにより、離れて暮らす家族の安否を知る、象印の見守りポットのような機能も実現できる。

課題として考えられるのは、シグネチャーがはっきりしない機器、例えばACアダプターを使用するノートパソコンなどが把握しにくいということがあげられる。充電していたり、使用中だったり、スリープしていたりして、明確なオン・オフやオペレーションの状況が使用電力のパターンに明確に現れてこない。

また、シグネチャーは機器の設置場所や宅内のワイヤリングの状況に影響を受ける。洗濯機や冷蔵庫など、大物家電は一回設置したら動かさないが、ドライヤーや掃除機などは使用場所が動くので、それによりシグネチャーも変わってくる。

電流のサンプリングは非侵襲で高周波であるから、精度と信頼性、安定性がどの程度確保されるのかも気になる。法令上、メインケーブルをいじるわけにはいかないが、センサーの性能は基本要件であり、全体の性能にかかわってくる。

Green Running社は、2010年に設立され、創業者のPeter Davies氏が現在もCEOを務めている。2010年に出願されたElectric Signatureの特許が基本になり、その後、センシングやAI(人工知能)、機械学習等の技術を加えて今に至っている。30人ほどの規模で、ロンドンのシティに本拠地がある。

現在、イギリスとアイルランドで事業を開始しており、今後欧州にも展開の予定。Verv Home Hubを現在の小売価格は250ポンド(約37,500円)だが、これも100ポンド、15,000円程度にはなると言う。これだと、ちょっと高いので小売ビジネスとしては広がりにかけるであろう。Green Runningは、電力会社とも良好なコネクションを持っているということなので、電力会社がスマートメーターのアップグレード版として配布し、電力料金で回収したり、集取したデータを電力会社に売るなど、いろいろなビジネスモデルが考えられる。そう、電気を扱うようになると次に流通というテーマが見えてくる。

Green Runningはこの点を見据えて、”vlux”というブロックチェーンを利用した新しいエネルギー流通のプラットフォームを開発中である。通常この規模のスタートアップだと、自分の今の技術・製品を売るために極度にフォーカスされていて視野が狭いというのが特徴であるが、次世代を見据えたR&Dにも投資しているところがこの会社のすごいところである。

IoT、AI(人工知能)、ブロックチェーンという三大技術トレンドを有し、エネルギーという具体的な課題に取り組んでいるGreen Running社についてご紹介した。数あるスタートアップの中では、地に足のついた優等生的な存在だとみられる。事業はまだ始まったばかりだが、今後、この会社自身として大きくなっていくのか、電力会社と連携して行くのか、あるいは新しい電力流通のプラットフォームで今までにない事業領域を築いていくのか、注目を続けたいスタートアップである。