FiveAI – 都市のモビリティのための自動運転ソフトウェアプラットフォーム
FiveAI(ファイブAI)は2015年にStan Bolandによって設立された自動運転のソフトウェアのスタートアップで、本社はケンブリッジ。英国の6箇所に拠点があり、全体で100名強の陣容である。都市の高度に複雑な環境において公共交通機関を補完するシェアード・アーバン・モビリティのソリューションを設計するためのソフトウェアプラットフォームを提供している。
世界中にジャイアントがたくさんいる自動運転の領域で、敢えて起業をする意義・戦略は、自動運転でどの会社も直面するであろう最も困難な課題へのソリューションを開発し、ビッグプレイヤーにライセンスすることである。おそらく、複雑な都市環境で安全な自律走行車を提供するというのはヨーロッパ独特の問題で、アメリカや中国の自動運転とは異なるソリューションが必要になるだろう。自動車というグローバルに販売する製品においては、地域ごとにチューンされた機能を搭載することが求められるから、ヨーロッパでは現地で開発されたソフトウェアを搭載する意味はある。FiveAIは英国政府の支援を受け、8台の試作車を持って南ロンドンのブロムリーとクロイドン地区で実証実験を行なっている。試作車はいわばセンサーの塊で、カメラ、レーダー、ライダー、超音波、GPSなどを搭載し、データを取りまくっている。
安全を最も重視するFiveAIは、自律走行車の安全に関するフレームワークを提案し (Certification of Highly Automated Vehicles for Use on UK Roads) 産業界および政府を巻き込んで、標準策定をリードしている。FiveAIの技術領域は、都市のモデル化(デジタル・ツイン)、三次元のディテクターとトラッカー、複数モダリティのセンサーフュージョン、自動運転におけるリスクマネジメント、人間行動予測、妥当性確認と検証などである。
ところで、創業者のStan Bolandはいわゆる「シリアル・アントレプレナー」である。Stanが最初に立ち上げたElement 14 Ltd. は1999年に Acorn Computersの組織改編から生まれた会社で、純粋なスタートアップではないが、Stanはこの会社を率いて、通信用半導体とDSLモデムのソフトウェアの会社に仕立て、2000年にBroadcomに$640Mで売却した。
次に、2002年、Stanは Icera Inc. というファブレスの通信用半導体会社をスタートし、モバイルブロードバンド用のモデムチップセットを開発した。Iceraは、2011年にNVIDIAに$430Mで買収された。Iceraをともに立ち上げたメンバーに、Nigel ToonとSimon Knowlesがいるが、この二人はIceraを売却した後、AI(人工知能)用の半導体のスタートアップ Graphcore を2016年に立ち上げており、彼らもシリアル・アントレプレナーである。
シリアル・アントレプレナーというのは「起業」というスキルを持った専門職と言える。大企業でも、研究開発テーマからスタートして、それを育てて事業部に技術移転し、その後、研究開発に戻って新たなテーマをスタートさせるタイプの人間がいるが、そういうマインドセットを持っているのだろう。ただし、大企業の場合は事業に移転しても創業者利益を得ることはないので新たなスタートアップに対するインセンティブが低いところが大きな違いである。