COVID-19が加速させたEdTechのスタートアップ

教育分野のデジタル・トランスフォーメーションは他のセクターに比べて遅れていると言われており、Covid-19のパンデミックが始まる前までは、他の産業のようにテクノロジーによる変革が進んでいなかった。もちろん、対面教育からeLearningへ、そして遠隔教育、モバイルラーニングへの流れはあったものの、大きなムーブメントになるには至っていなかった。ところが、Covid-19によっていやおうなしにそのニーズが高まり、オンラインの世界に放り込まれてしまったのである。そしてそれによって、オンライン教育の課題が浮き彫りになり、それを解決するための新たな技術開発、すなわちEdTechが加速した。数多くのスタートアップがEdTechの領域で技術開発やコンテンツ開発を進めている。

Soffos: AIが知識の定着を促すTestMeを開発するキプロスのスタートアップ

Sofos (https://www.soffos.ai/) はキプロスのレメソスで2018年に設立された会社で、AIを活用したラーニング管理ソフトウェアを開発している。

教育が物理的な教室からバーチャルな環境に移行することで、学習はより自立的で柔軟な活動となったが、教室外では集中力が続かない、また情報の定着が難しいといった課題がある。学習者が自ら学習を継続し、効果的に知識を定着させるソリューションが求められる。

Sofosが開発したTestMe (https://www.testme.ai/) は、AI(人工知能)主導のアルゴリズムにより、ユーザーが提供した資料に基づいて暗記カードやクイズを自動的に生成し、ユーザーは自分の知識を独自にテストすることができる。TestMeにユーザーのメモをアップロードするだけで、数百の問答セットとクイズを数分で作成し、復習用教材を手動で作成する時間を大幅に減らすことができる。

コンピュータ言語学、文脈記憶、深層学習を組み合わせた”Cognitive AI Engine”により、生テキストなどの整理されていない材料から知識化することをコア技術としており、「サーチからアスクへ」というコンセプト変換を起こそうとしている。

現在、TestMeは営業担当者や新入社員向けに企業知識や製品知識を教育するシステムをターゲットに事業を立ち上げている。

Axonify: 企業向けマイクロラーニング・プラットフォームのプロバイダー

カナダ、ウォータールーのAxonify社 (https://axonify.com/) は2011年に設立されたスタートアップで、2021年4月にLuminate Capital Partnersに$250Mで買収された。

企業内トレーニングで従業員を物理的な教室に集め、長時間にわたり研修プログラムを行うという従来の方法は、在宅勤務やハイブリッドワークなど勤務スタイルの変化により現実的でなくなってきている。また、ZoomやTeamsなどのツールを使うオンライン教育では、長時間集中して学習を行うというのは難しい。さらに、忙しいスケジュールの中でまとまったトレーニングの時間を確保することも難しい。これらがマイクロラーニングという分野を推進する原動力である。

マイクロラーニングは、5分とか10分の比較的短時間で完結する学習ユニットを用いて学習する方法で、ちょっとした隙間時間で学習することができ、またパソコンだけでなく、スマホ等のモバイル端末でも学習することが可能である。Axonifyは企業向けのマイクロラーニングのプラットフォームを提供している。マイクロラーニングで高い学習効果を実現するために、脳科学、アダプティブラーニング、ゲーミフィケーションなどを教育に取り入れ、各従業員の知識レベルの把握、それぞれに適したプログラムを提供し、学習効果測定することでフィードバックを与える。

すでに多くの顧客企業を持ち、小売や、金融、保険、テレコムやコンタクトセンター、飲食など、数多くの業界で活用されており、150カ国以上、350万人以上のユーザーに利用されている。

Grovo: 直感的・没入的UIでマイクロラーニングのビデオコンテンツを提供

Grovo (https://www.grovo.com/) はニューヨークで2010年に設立され、2018年にCornerstoneに$24Mで買収された。

この会社もマイクロラーニングが活動領域であり、大学や企業向けにテスト、進捗管理、ゲーミフィケーション、クラスルームトレーニング、Web会議など、各種ツールを提供するとともに、数多くのビデオコンテンツも提供している。

Grovoは、SaaS型の学習管理システムであり、各種ツールにアクセスするAPIを具備しており、学習の自動化や効果の分析などのカスタマイズが可能になっている。コンテンツとしては60秒のマイクロラーニングビデオに特化しており、独自のソフトウェアから5000以上のビデオを公開している。

(出典:Grovo)

Busuu: 語学学習のためのソーシャルネットワーク

語学学習のオンラインコースを開発するBusuu (https://business.busuu.com/) は2008年にロンドンで設立された会社で、2021年11月に米国の教育・貸本業のCheggに$208Mで買収された。

現在、Busuuは日本語も含む13か国語のオーディオ・ビジュアル言語学習コースを提供している。ソーシャルネットワークのコミュニティーを運営し、ユーザーは1万人以上のネイティブ・スピーカーの講師に時間を問わずアクセスすることができる。レッスンの形態は、1対1やグループレッスンなど多様である。ビデオチャットやピアツーピアのテキスト修正、効果測定などのツールを活用して効率よく学習を進めることができる。Busuuの基本はSNSなので、学習者同士で仲間を作ったり、さまざまな話題や情報を共有したりして楽しみながら学習できることもメリットである。

顧客はOECD, Puma, DHL, INSEAD, Uberなどを含む企業が中心で、全世界で1億2000万のユーザを擁している。

(出典:Busuu)

Memrise: レッスンを進めるにつれてユーザーニーズに合わせて適応していく語学学習システム

Memrise (https://www.memrise.com/) は2010年にロンドンで設立された言語学習プラットフォームを提供するスタートアップである。

認知科学と機械学習の知見を用いて、人間の記憶の仕組みに基づいた技術を実装し、人間の長期記憶を鍛えることにより、通常の繰り返し学習に比べて倍速で学べる。音声と映像を組み合わせた教材はクラウドソーシングによりコミュニティユーザーから提供される。また、定期的にテストを行うことで学習した内容を確実に記憶することができる。Memriseは、現在日本語も含む14か国語のコースを提供しており、iOSのアプリとして提供されている。

Immersive learning that makes you feel like you're right there with the locals
(出典:Memrise)