プロジェクト・マネジメント入門 ~プロジェクト運営に関して困った問題が起きたときにPMが考えるべき項目

プロジェクトを運営していると、日々考えなければいけない問題、決めなければいけないことが次々と出てくる。典型的なのは、このままだとスケジュールが遅れて、狙っているマイルストーンが予定通りに達成できないケース→さあ、どうする?プロジェクト・マネージャの体感としては、予定通り進むプロジェクトはむしろ稀で、放っておくと絶対に遅れるのでそれをなんとかするからこそプロジェクト・マネージャの存在価値があるのだ。

プロジェクト・マネジメントの教科書的には、予算をいじるか、スコープをいじるか、日程をいじるかのいずれかであると書いてある。しかし「予算」「スコープ」「日程」は制約のトライアングルであり、どれかを変えれば他にも波及する三つ巴の関係にあり、なかなか難しい。自分の権限で決められることもあれば、決められないこともある。特にプロジェクトで使っているメンバーは定常組織から一時的にお借りしている人たちで、専任もいれば兼任もいる。その人の他の業務との調整はプロジェクト・マネージャの権限を超える。

このようなプロジェクト運営の課題に関してプロジェクト・マネージャが考えるべきことが「テーマ」であり、PRINCE2では「プロジェクトがライフサイクルを通じて進行するにつれ、継続的に取り組まなければならないプロジェクト・マネージメントの側面」と定義されている。つまり、対象としている内容領域の問題を、目先のことにとらわれず、プロジェクトの視点からとらえ、考えるべき項目を提供してくれているのである。

テーマは全部で7個ある。まずは「ビジネス・ケース」。プロジェクトをキックオフするときに、このプロジェクトが組織にとってどういう価値をもたらすかを議論したはずである。しかし、進行していくうちに視野が狭まって目先の課題に集中しがちである。プロジェクト・マネージャには常にビジネス・ケースを見据え、プロジェクトが価値を失わないように方向づけることが要求される。

「オーガニゼーション」。プロジェクトは機能横断的な一時的な組織だ。目標を達成するために、定常組織から一時的に借りたり、期間限定で雇用したり、外部組織と役務提供の契約を結んだりして調達したリソースである。これはプロジェクトのライフサイクルを通じて一定である必要はなく、状況に応じて増やしたり、減らしたり、取り替えたりするものである。しかし、そのためにはお金もかかるし、出し元との調整など、プロジェクト・マネージャの腕の見せ所である。出し元は必ずしも快くメンバーをアサインしてくれるとは限らないので、なぜ必要なのかを強い説得力を持って説明することが必要なのだ。

「クオリティ」。プロジェクトのプロダクツ、成果物の品質をどう確保し、提供していくかもプロジェクト・マネジメントの大きなテーマである。プロジェクト・プランの変更を余儀なくされた時、要求される品質を維持できるのか、予算や日程の制約上どうしても品質を落とさざるを得ない場合、どうするのか。これも、説明と調整が必要な項目だ。

「プラン」。言うまでもなく、プロジェクト・マネジメントのメイン・プロダクトであり、時間、コスト、品質、スコープなどの成果目標をいつ、どのように達成するかを示すものである。様々なプロジェクトのコンポーネントをベースに、それらを計画としてステークホルダーに提供する。

「リスク」。プロジェクト・マネジメントにおけるリスクとは、わからないこと、不確実性という意味で使われており、一般的な定義である悪いことが起こりうる可能性とか、危険といった意味合いとは異なる。リスクは、脅威であるとともに機会でもあるという両面を持っている。プロジェクトを計画するにあたり、どのようなリスクが想定され、それについてどういう対応をしていくかを考えることが必要である。

「チェンジ」。変化、という一言だと分かりにくいが、このテーマの意味するものは、プロジェクトの諸問題、例えば変更要求やプロダクトが要求仕様を満たしていなかったような場合、それがプロジェクトの計画や品質に対してどういうインパクトを与えるかを評価し、どう対処するかということだ。プロジェクトは常に想定通り進むのではなく、いろいろな場所で問題を起こし、修正しながら運営されるものである。

「プログレス」。進捗とは、プロジェクト・プランの実行可能性を扱うもので、プロジェクトを進めるべきか、どのように進めるべきかを決定することである。もう少しブレークダウンして説明すると、計画を承認するための意思決定プロセス、プロジェクトのパフォーマンスのモニタリング、計画通りにいかない場合のエスカレーションのプロセスなどが含まれる。プロジェクトのスケジュールが遅れ、計画通りに進捗しない場合にプロジェクト・マネージャが取るべき行動を説明している。

さて、以上7個のテーマ = プロジェクト・マネジメントが取り組むべき項目を実際のプロジェクトにどうやって応用していくのか、これがテーラリングだ。様々な制約条件がある中で、あなたのプロジェクトの規模、タイプ、複雑性、また、組織やカルチャー、ライフサイクルのモデル等、様々な要素の中で適応していくことになる。

難しそうに聞こえるが、ある程度経験のあるプロジェクト・マネージャならば、上述の7つのテーマと同じことを無意識のうちに考慮してプロジェクト・マネジメントを行っているのではないだろうか。常にプロジェクトの価値を拠り所にして、プロジェクトの組織を編成・変更し、どうやってプロダクトの品質を担保し、不確実要素をステークホルダーやエキスパートとコミュニケートしながら明確化し、計画変更によるプロジェクトへのインパクトを評価し、パフォーマンスをモニターしながら進捗を明確化して意思決定や上位マネジメントへのエスカレーションをする。どうだろう?プロジェクト・マネージャとして当たり前に行っている行動ではないだろうか。

これを「テーマ」として言語化することにより、取るべき行動をもれなくチェックすることができるのである。あなたも、プロジェクト運営で困ったことが起きた時に、対象領域の目先に囚われすぎず、よりプロジェクト・マネジメント的な視点から見直してみることで解決することができるのではないだろうか。

Project Shop Banner